<いのち>の授業 高尾レポート |
「命の教育」は「心の教育」 |
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久留米市山川校区公民館 主事 高尾忠男 | |||||||||||||||||
1. 時代背景 現代の若者は命に対する価値観が欠落し、自己抑制力がなく「キレ」の現象を起こし、信じられないような悲惨な事件が続発している。 世の中の進歩は速く、特に情報化社会の発展は著しい。また、今はIT時代ともいわれ、人が生活する表面の環境は急速に発展した。 また、私たちをとりまく環境(家庭、地域、社会)は大きく変容し、教育の面でもエリート養成が最優先し、人間としての一番基本的な「感性」・「倫理観」・「心の文化」を養う教育環境は希薄化している。 2. 導入 教育現場として、若者の悲惨な事件を防止し、「子どもたちの命を守る」教育はできないのか。そこでたどり着いたのが、一年生教科「農業基礎」で、植物より感情を表面に出す動物、ブロイラー飼育を通しての「命の教育」である。 3. 目的 (1)「農業基礎」本来の目的は、ブロイラー飼育技術、解体技術の習得であった。この従来の内容に、生から死(種卵〜ヒヨコ〜飼育〜解体〜試食)という実習を通した「命の教育」を加え、二本立て「車の両輪」とした授業内容にした。 (2)「命の教育」は「心の教育」であり「愛の教育」である。 (3)「生は食」を通し、「命の尊さ」を理屈ではなく体で覚えさせる。 自分たちが、日々愛情を注いで育てた鶏を、自分たちの手で命を絶ち、捌き、食することで「命の尊さ」・「命の重さ」・「命の儚さ」を体験させれば、「心の教育」に役に立つ。 4. 問題点 (1) 矛盾〜「命の尊さ」を学ぶのに「自ら殺して食する」こと。 (2) 疑問〜情操教育に本当に役に立つのか。 (3) 家庭からの反応〜少子化・核家族化した現代、どんな反応があるのか。 (4) 生徒への説得。 5. 事前指導 (1) 農業教育の本質 (2) 支えられている「命」・「いただきます」の本当の意味。 (3) 生命誕生の神秘性 (4) 感謝の気持ちを実感させる。 (5) 解体実習前の意見交換会(1年生全員と二年生代表8名) 6. 実施 (1) 平成8年度より、(ヒヨコの飼育〜解体〜試食)班編成で実施。 (2) 解体実習は毎年12月上旬、生徒たちの号泣・嗚咽が辺りを支配する。日頃と全く違う異常な雰囲気のなかで行う(実習が空中分解するのではないかと思えるくらい)。 (3) 全員で、日頃と違う本当の意味の「いただきます」を合唱して試食する。 食べることが鶏に対する感謝である。拒絶反応をしていた者が、自分の気持ちが信じられないといって、お代わりをしていた。 (4) まとめ〜班ごとにスライド発表(2月中旬)を行う。 (5) 感想文の提出。 7. 結果 (1) 生徒たちは実習で大きく「心が成長」し、トラウマはない。 (2)「命の尊さ」・「命の重さ」・「命の儚さ」を実感した。 (3) 食べ物は全部「命」である。感謝の気持ちを再認識した。 (4)「いただきます」の本当の意味を理解した。 (5) 食べるまでの過程の苦労を実感した。 8. 感想文 (1) 高校生らしい「心の揺れ」・「リアルな体験」を素直に表現した内容であった。 (2)「命」や食べ物のありがたさ、周りへの思いやりから、少年犯罪や幼児虐待など、時局への思いを述べている。 9. 当初考えられた問題点 現在までクレームはない。生徒たちが種卵・ヒヨコから(愛情を込め)飼育し、自らの手で食肉処理することで、初めて痛感した「命の尊さ」・「食べ物のありがたさ」等々、本人たちの「心の成長」が家庭内でも保護者に理解されたのではないかと思う。 10.出前授業 (1) 班別に、発表はプレゼンテーションを活用し、積極的に取り組んでいる。 (2) 地域の小・中・高・短大・公民館で、生徒の発表と聴衆者との意見交換を地域性に配慮しつつ行った。 (3) 若い者同士(高校生と小中学生)、高校生と大人(教育関係者・教育委員・教員・保護者・地域住民) (4) 日頃見ることのない、生徒たちの素晴らしい「心の成長」を見ることができた。 11.賛否両論(メール・手紙・電話) 賛成75% 反対25% 12.全体の総括 (1)「命の教育」は「心の教育」である。性急に答えを求めても得られない。この実習を体験した生徒たちが、今後長い年月をかけて、社会・職場・家庭などの中で、自分自身を成長させることが大事なのではないか。 (2) 大人は若者の外見・姿から一方的に偏見を持つ。子どもは種々の環境に影響を受けて育つ。その環境は大人に責任がある。この教育を通して、「心・魂」に響く体験をすれば、人間的に大きく成長する。 (3) 子どもは生まれながらに、生きる力と学ぶ力を持っている。それを育てるのが大人である。 (4) 生徒たちが7年間(約280名)、全員皆勤(遅刻・欠席・早退者無)で、涙を流し、逃げずに真正面から学習してくれたことに、最大の感謝と賛辞を贈りたいと思う。 (5) 10年後・20年後、教え子たちと再会し、語り合うのが私の夢である。 |
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希望を! |